東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)75号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いない甲第二号証及び第三号証によれば、本願明細書(本願発明の出願公告公報及び昭和五九年一二月三一日付け手続補正書)には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。
本願発明は大型の貯槽用ホツパー、シユート等の内壁面に合成樹脂製薄板を裏張りする方法に関するものである(前記公報第一欄第三〇行ないし第三二行)が、鋼板製の貯槽用ホツパー等においては、粉粒体原料のブリツジ現象、付着現象あるいは内壁面の腐蝕現象等が生じ、粉粒体原料の円滑な搬流が損われる問題があるため、貯槽用ホツパー等の内壁面に、不活性、平滑性の良好な合成樹脂製薄板を裏張りし、この合成樹脂製薄板に粉粒体原料が接するようにして、前記問題の解決を図つている。従来このような合成樹脂製薄板の裏張りには、合成樹脂製薄板を強固に固定することが可能なネジ止めによる方法、すなわち、貯槽用ホツパーを構成する比較的薄い鋼板及び合成樹脂製薄板に適当に通し穴を穿孔して、両板の通し穴に通しボルトを通し、ナツトで締め付けて固定する方法が採られていること、しかし、このような方法では、ホツパーを構成する鋼板に通し穴を穿孔する必要があり、またホツパーは大型のものであるから、ホツパーの内側と外側の両側において作業を行わなければならず、そのために作業性が悪く非経済的であつた(前記公報第一欄第三三行ないし第二欄第二〇行)。
本願発明は、右問題点を解決するために、特殊なネジ付きスタツドを用いるものであるが、従来使用されているネジ付きスタツドには、非常に短い寸法のものが存在せず、かつ、スタツド電弧溶接装置には特別なチヤツク装置があるので、スタツド全長の一定部分をチヤツク部分とし、このチヤツク部分に右チヤツク装置からスタツドに通電してスタツドを支持するようになつているため、スタツドの寸法にはおのずから一定の制限がある。したがつて、このような従来のネジ付きスタツドをホツパー内壁面に立設固着して、合成樹脂製薄板に穿孔したバカ穴に嵌めナツトで締め付けて固定する場合、ホツパー鋼板面に対する穴の穿孔作業は不要となるが、合成樹脂製薄板面上にスタツド末端部が突出し平滑性を損う結果を招くため、従来のネジ付きスタツドを用いたネジ止めは不可能であつた。そこで本願発明は、特殊なネジ付きスタツド1、すなわち、先部を合成樹脂製薄板Bの厚さに等しい長さに形成したネジ部片1aとし、後部を電弧溶接装置のチヤツク装置にチヤツク可能に形成したチヤツク部片1bとし、右チヤツク部片1bは、その周面に形成した深い切り込み5によつて、先部ネジ部片1aに折除可能につながつているものを採用して、このネジ付きスタツド1を大型の貯槽用ホツパー、シユート等の内壁面Aに電弧溶接によつて立設固着したのち、後部チヤツク部片1bを折除し、残るネジ部片1aに、合成樹脂製薄板Bに穿孔したバカ穴2を嵌めて、合成樹脂製薄板表面のバカ穴位置に削成された合成樹脂製薄板Bの厚さにほぼ等しい深さの皿型の窪み3と嵌まり合う皿型ナツト4で、ネジ止めするようにしたものである(前記公報第二欄第二三行ないし第三欄第二一行、前記手続補正書第一頁第一八行ないし第二頁第三行)。
以上のように、本願発明は、特殊なネジ付きスタツドを採用し、ホツパー等の内壁面には合成樹脂製薄板の厚みに相応する非常に短いネジ部片を立設固着して合成樹脂製薄板を皿型ナツトでネジ止めするものであるから、合成樹脂製薄板表面の平滑性を損うことなく、合成樹脂製薄板をホツパー等の内壁面に強固に固定し得るものであり、しかも、スタツドを使用したネジ止めになる方法であるから、ホツパー等の内壁面に対する穿設作業が不要であると共に、その作業はホツパー等の内側、すなわち片側だけで行うことができるものであり、また、皿型ナツトが合成樹脂製薄板と共に摩耗しても長期間にわたつてその固定効果を維持することができ、作業性が良く、かつ、非常に経済的な方法である(前記公報第四欄第一一行ないし第二三行、前記補正書第二頁第四行ないし第七行)。
2 本願発明と引用例1記載の発明における構成の相違について
原告は、本願発明は、ライニング材を皿型の窪みのテーパ面で固定するもので、ライニング材の厚さのすべてを利用して固定しているのに対し、引用例1記載の発明は、ライニング材の孔のテーパ面、もしくはライニング材の孔の段部のみで固定するものであつて、両者はこの点において相違すると主張する。
そこで検討すると、成立に争いない甲第四号証によれば、引用例1には、粉粒物用耐摩擦性壁構造、すなわち金属の壁の内面に、スタツド溶接法により溶植されたスタツドとこのスタツドに取り付けた抑え部材とによつて、合成樹脂のライニング材を固着したものの発明が記載されているところ、その第1図及び第3図(別紙図面(二)参照)をみると、同発明における抑え部材の一例であるナツト5は、スタツドを受け入れるために中空の袋状に形成されており、この袋状に形成された部分(内周に雌ネジ9が刻まれる部分)は、ライニング材を上から抑えるという意味での固着には直接関与するものではなく、この場合のライニング材の固着作用は、その皿型の窪みのテーパ面(拡大孔部8)において行われていることは、前掲各図から明らかである。そして、ライニング材の固着が皿型の窪みのテーパ面で行われている以上、引用例1記載の発明における固着も、ライニング材の厚さのすべてを利用しているといい得るものである。なお、前掲甲第四号証によれば、引用例1の前掲各図においては、ライニング材の孔の垂直部分が比較的厚く示され、テーパ面すなわち抑えの部分は相対的に薄く示されているが、それは図面上たまたまそのように記載されたにすぎず、引用例1記載の発明は右孔の垂直部分及びテーパ面の寸法を構成の要件とするものではないことが認められるから、それぞれの寸法をどのように設定するかは、発明の実施にあたり適宜設計されることにすぎない。
原告は、本願発明は、<1>ライニング材が相当薄いものでも実施できる、<2>ライニング材がほとんどすべて摩耗するまで使用可能であり、長期にわたつてライニング効果を維持できる、<3>充填材を使用しないので、その脱落による危険がない、<4>ライニング材の固着力が強いのに対し、引用例1記載の発明においては、本願発明とライニング材の固定方法が相違するため、これらの作用効果を奏し得ない、と主張する。
しかしながら、<1>の点については、引用例1記載のものも、ライニング材のホツパー等への固着は皿型の窪みのテーパ面で行われているのであるが、右窪みの深さ等に限定があるのではないことは前述のとおりであるから、適用し得るライニング材の厚さにおいて、本願発明の場合と特に異なるものとはいえない。
<2>の点については、引用例1記載の発明のものでは原告主張の効果を得られず、ライニング材がある程度摩耗するとホツパー等が使用できなくなると考えるべき何らの証拠もないから、<2>の点において本願発明との間に差異があるものということはできない。
また、<3>の点については、引用例1には、その第二頁右下欄第一五行ないし第三頁左上欄第四行に、「スタツド2と抑え部材6とは孔3の内部に位置してライニング材4の表面から突出して居らず、必要があればこの孔3の拡大孔部8にライニング材4と同質の合成樹脂からなる充填材14を充填し平坦な内面に仕上げることもある。」と記載されており、これによれば、引用例1記載の発明において、その拡大孔部8への充填材14の充填は、「必要があれば」行われるものであつて、充填材の使用は不可欠でないことが明らかである。のみならず、「スタツド2と抑え部材6とは孔3の内部に位置してライニング材4の表面から突出して居らず、……」というのであるから、引用例1記載の発明には、固着後のライニング材4の表面が平滑である場合も含まれるのであるから、この場合には、原告主張の<3>の点は引用例1記載の発明でも当然に得られているものである。
<4>の点については、引用例1記載の発明においても、前述のように、ライニング材のホツパー等への固着はその皿型の窪みのテーパ面で行われており、その固着においてライニング材の厚さのすべてを利用しているのであるから、引用例1記載のものの固着力が本願発明のものより弱いとはいえない。
したがつて、原告が本願発明と引用例1記載の発明における構成上の相違点として主張する点は、両者間の実質的な相違点とはいえないから、審決に両者間の相違点を看過した誤りは存しない。
3 本願発明と引用例1記載の発明との相違点の判断について
原告は、引用例2記載のナツトは、合成樹脂製薄板であるライニング材の固定手段として使用することはできないと主張する。
しかしながら、成立に争いない甲第五号証によれば、引用例2記載のものは、基材3に対してボルト4とナツト1により基材2を固定するもので、固定後の基材2の表面は、充填材を充填するまでもなく平滑であることが認められる。このように引用例2記載のものは、基材3に基材2を固着する技術にほかならず、その機能上、二つの基材を固着ないし固定する場合に一般的に適用し得ることが明らかであるから、引用例1記載のようなホツパー等の内面にライニング材を固着する方法において、引用例2記載のものを適用する程度のことは、当業者なら適宜なし得るものと認めるのが相当である。
この点について、原告は、本願発明における皿型ナツトとの相違として、(イ)引用例2記載のナツトを嵌入する孔の形状は、ナツトの形状に対応するものではない、(ロ)引用例2記載のナツトは、基材の表面より凹入するものである、(ハ)引用例2記載のナツトは、ネジ止めされると自ら基材に固着するものである、と主張する。
しかしながら、(イ)の点については、前掲甲第五号証によれば、基材3の孔及び基材2の孔の一部(基材3に隣接した側)は原告主張のとおりであるにせよ、その第2図及び第3図(別紙図面三参照)から明らかなとおり、引用例2記載のナツト自体は、皿型で比較的広いテーパ部分を有し、これに対応する基材2のテーパ部分と協働して両基材を固着するものであるから、これが引用例1記載の発明における固着用としても適用し得ることは明らかである。
また、(ロ)の点については、引用例2記載のナツト1は、その第2図から明らかなとおり、基材2に凹入していない。もつとも、その右欄第四行ないし第六行には、「本考案のナツト1は基材2の面から突出せず沈頭し従来の如くナツトが面上より突出して障害を来たすことがなく……」と記載されており、これによれば、引用例2記載の考案には、基材2の表面から沈頭すなわち凹入した態様のナツト1も含まれることになるが、同時に「ナツトが面上より突出して障害を来たすことがなく……」というのであるから、要するにナツト1が基材2の表面上から突出しないことが同考案の要旨であることが明らかである。したがつて、引用例2記載のものは、ナツト1の頭部dが基材2の表面と同一平面、すなわち固着後の基材2の表面が平滑となつている態様を、当然に含むものと認められる。
さらに、(ハ)の点については、引用例2には、「刻みcが基材2の孔壁に切込み作業を行つて空転を防ぎつゝ基材2に直入し、同時に頭部dも漸次切割aの作用により弾性的に沈入摩擦する。」(左欄第一五行ないし第一八行)、「刻みc、切割aは前者は空転防止、」(右欄第八行及び第九行)と記載されているところ、これによれば、原告がいうとおり、引用例2記載のナツトは、ネジ止めされると自ら基材に固着するものであると認めることができる。しかしながら、この点は、引用例2に記載されている技術的思想のうち、引用例1記載のものに適用されるべき部分、すなわち基材2にテーパ状の孔を設け、これに対応する頭部dを有するナツト1をもつて基材2を基材3に固着することとは別異の構成部分とその作用によるものであるから、原告主張の(ハ)の点は、引用例2記載のものを引用例1記載の発明における固着用として適用するに際し、障害となるものとはいえない。
したがつて、本願発明と引用例1記載の発明との相違点についての審決の認定、判断に誤りは存しない。
4 以上のとおりであるから、本願発明は引用例1及び引用例2の記載内容から容易に発明をすることができたものとした審決の判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の違法を理由のその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
大型の貯槽用ホツパー、シユートなどの内壁面Aに合成樹脂製薄板Bを、前記内壁面Aにスタツド電弧溶接によつて立設固着した、先部を前記合成樹脂製薄板Bの厚さに等しい長さにしたネジ部片1aとなし後部をチヤツク部片1bとなし、そして後部チヤツク部片1bが先部ネジ部片1aに折除可能に一体的に連がつているネジ付きスタツド1の後部チヤツク部片1bが折除された先部ネジ部片1aに、合成樹脂製薄板Bに穿設したバカ穴2を嵌めて、合成樹脂製薄板表面のバカ穴位置に削成形成された合成樹脂製薄板Bの厚さに略等しい深さにした皿型の窪み3と嵌り合う皿型ナツト4でもつてネジ止めするようにした大型の貯槽用ホツパー、シユートなどの内壁面に合成樹脂製薄板を裏張りする方法(別紙図面一参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面一
<省略>
(以下省略)